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M-Ⅴ

M-Ⅴ

2000年2月、内之浦より打ち上げられたM-Vロケット4号機は、打ち上げに失敗、積荷である「アストロE」は放出されたものの、結局衛星に成れなかった。直ちに原因の究明が始まったが、4号機が地上に送信を続けたテレメトリーデータには、その壮絶な記録が残されていた。

調査の結果、M-V4号機は、りフトオフ直後に一段目ノズルが破損していたことが判明した。そこから燃焼ガスが噴き出し、ピッチ(上下)制御を乱された彼女は必死に姿勢を立て直そうとしたデータが残っている。破壊が進みピッチ制御用アクチュエーターが焼かれて役立たずになると(+53.7秒)、彼女は体をひねって、ヨー(左右)制御アクチュエータを代用させて姿勢を回復させていたのだ。
ずたずたになった一段目を脱ぎ捨てた彼女は(+75秒)、失った速度を稼ごうと機体を降下させ、不要な高度エネルギーを速度エネルギーへと変換させようとまでしており、その軌道変更は20回にも及んだ。これら軌道変更はリミッターが作動するほど激しいものだったという。


”我が子”である衛星だけは守ろうと、砕けた足を引きずって、
彼女は最後まで空を駆けたのだ。


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M-V(ミューファイブ)ロケットはISAS(旧宇宙科学研究所)が開発した、第5世代目に当たる世界最大の固体燃料ロケットです。NASDA(旧宇宙開発事業団)のH-2Aが商業や産業の為の事業的打ち上げを担当するのに対し、彼女は学術研究の為の科学観測衛星の打ち上げを担当します。
 
 世界のロケットのほとんどが、ドイツのV-Ⅱロケットからの進化の流れを組む中で、彼女は戦後ペンシルロケットから始まった日本独自の進化の流れを組む、世界的にも珍しいキャラクターです。

その血筋を辿ってみるに、世界の実用ロケットの中で、彼女ほど軍事と縁遠い存在は、世界に例を見ません.。

世界で唯一の惑星間空間に届く固体燃料ロケットである彼女は宇宙科学の研究をお手伝いしていると同時に、彼女自身がロケット技術習得の為の研究機でもあり、その機体は様々な知恵と工夫が結晶化した、大変に凝ったものです。

その性能は世界でも最高レベルのペイロード比(ロケットの総重量に対する積荷重量の割合)を誇り、米露の最新型の大陸間弾道弾を凌駕する世界最大級の固体燃料ロケットでありながら、その船体は打ち上げられる衛星に合わせてカスタマイズされる一点モノ。これほどの大型ロケットを斜めに打ち上げるのは世界的にも例がありませんが、これは一秒でも早くロケットを海上に出すことで、ロケットが万が一爆発したばあいでも、地上施設に被害が及ばないようにとの配慮から。

更に全段が固体燃料(巨大なロケット花火と思ってもいい)というのも実は大きな特徴です。そもそも固体燃料とは、一度火を入れたら、停止することも推力を調整することも出来ないわけで、そんな”ブレーキもアクセルも無い、いつでも全開のエンジン”で正確に衛星を軌道投入できるのは世界でも彼女だけです(普通は全段のどれか一つに、出力の調整が効く液体燃料エンジンをいれるものです)。

 M-Vロケットは冒頭の事故の後、様々な安全対策が施され、問題となったノズルもグラファイトから3Dカーボン・カーボン材への変更が図られ、より安全で使いやすいロケットとして復活を果たします。復活後の初打ち上げである5号機は、あの「はやぶさ」の打ち上げに使用され、その名を世界中に轟かせました。


しかしM-Vは、打ち上げることに対して、あまりにも真面目に作られたロケットでした。M-Vロケットと、その乗客となる衛星は共に宇宙科学研究所内で作られます。だから、ロケットは衛星の為に、衛星はロケットの為に様々な調整をかける事が可能で、どんな打ち上げでも、最高の効率での打ち上げが出来たのです。それは一方で、手作りロケットの宿命である「打ち上げのたびに一から繰り返さなければいけないさまざまな調整と整備」、そして1機70億円という負担を宇宙研に強いることにもなりました。

また固体燃料ロケットというのは、その強烈な加速力故にお客である衛星は過酷な振動に晒されます。その為、M-Vに乗り込む衛星は他のロケットよりも一層厳しい振動試験を乗り越えなければならないのです。

膨大な手間と、高コスト。ありとあらゆる予算が削減されていく昨今、M-Vの存在は時代の流れから少しづつずれていったのかも知れませんし、そうでないのかも知れません。本当のことを知っているのはほんの一握りの人々だけ・・・。

身を削られるようなリストラの中で、2006年7月、文部科学省はM-Vロケットの廃止を決定しました。

太陽観測衛星「SOLAR-B」を宇宙に送り出し、Mシリーズの歴史は幕を閉じます。

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2006年7月にM-Ⅴの廃止が決定してから、はや1年半。高コストのM-Ⅴの後継機として開発が始まったG-Xロケットは技術的問題を克服できずに見事に破綻。後継機ロケットが影も形も無いうちに現行ロケットを取り潰した結果、当初から危惧されていた通り日本は中小型ロケットの打ち上げ手段を失ってしまいました。まさかここまで予想を裏切らない展開になるとは・・・。

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