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Planet-B "のぞみ"

Planet-B "のぞみ"


「あなたの名前を火星に送りませんか」


98年冬、こんな内容の記事が新聞の片隅に掲載された。自分の名前が
火星に送り込む探査機に焼きつけられ、探査機と共に永遠に火星の軌道を
巡るのだ。この火星行きのチケットに手を挙げた人々の数は27万人にも達し、
宇宙科学研究所(現JAXA/宇宙航空研究開発機構)には、連日葉書が
押し寄せた。27万枚の葉書からメッセージを切り抜き、台紙に貼って縮小する。
この気の遠くなる様な作業は宇宙研の広報部のみならず、他の職員も
巻き込み、連日連夜行われたという。

そして1998年7月4日、惑星探査機『PLANET-B』は火星に向け旅立った。
27万人の夢と、『のぞみ』という名前を授かって。

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日本で始めての惑星探査機『のぞみ』。そもそも98年に打ち上げられた彼女の火星到着予定は99年10月で、本来なら既に観測を終え、軌道上でのんびり余生を送っているはずの探査機でした。しかし、彼女の火星への道のりは5年にも及び、波乱に満ちた生涯を送ることになるのです。

 98年の暮れ、「のぞみ」は火星に向けての軌道変更時に制御エンジンのトラブルから推進剤を使い過ぎ、このままでは、もはや火星の軌道に入れないという事態に陥りました。本来ならばのぞみの旅路はここで終わりを迎えてしまってもおかしくはありませんでした。しかしISAS(旧宇宙科学研究所)スタッフは、残った推進剤でも火星にたどり着ける『新軌道発見』に取り組み、遂にその軌道を見出すことに成功します。

    「4年に渡り彼女を太陽中心の軌道に乗せ、
            二回の地球スイングバイをおこなう」

 火星は地球と同様に太陽の周りを公転する。そして「のぞみ」もまた、太陽の周りを回る。お互い近づいたり離れたりする。ならば、どんなに時間がかかってもいいから、「のぞみ」が一番推進剤を使わずに火星に近づけるタイミングになるまで地球や太陽と踊りながら待ち続けようというのです。4年間も!

 確かにこの軌道ならば、今の推進剤の量でも、火星にたどり着けるはずです。さらに03年は火星が地球に最接近する年であることから、各国がこの時期を目標に探査機を送り込んでおり、各国と共同観測ができるというオマケまでついてきます。
 
 しかし02年4月、太陽面で発生した大規模フレアが「のぞみ」を直撃します。自分の体調を記録したテレメータデータの送信ができなくなり、推進剤の凍結を防ぐヒーターもダウン。ISASでは「のぞみ」を救うべく、ビーコン信号のON/OFFだけで彼女のパラメーターを一つ一つ把握していくという、まるで蜘蛛の糸を手繰るような作業が続けられます。

Aという回路の電流の値は何アンペアか?**アンペア以上、
 ○○アンペアならビーコンを停止。それ以外ならなにもしない。

ビーコン信号のON/OFFをyes/noに置き換えて、のぞみに質問を答えさせたのです。懸命な運用の結果、電源回路の一部がショートしてしまっていることが判明しました。これが原因で、一部回路が電源を入れる度に”ブレーカーが落ちてしまう”状態になり、データの送信や推進剤ヒータが止ってしまっているのです。

 ならば、この不具合回路にひたすら電源ONを繰り返すことで微弱電流を流し続けて、ショートした回路を焼き切ってしまえるかも知れない。地球からは、祈りにも似た『共通電源を連続ONするコマンド』が送信され、この復活の呪文たるコマンド実施は、「のぞみ」を火星に投入できるタイムリミットである03年12月9日までの間に、実に1億3千万回にも及びました。
 
 03年12月、出発から5年、ついに彼女は傷ついた体を引きずり火星にたどり着きました。あとはヒータに電源を入れ、凍った推進剤を溶かし、メインスラスターを噴かして、火星の周回軌道に飛び込むだけになりました

 JAXAのHPでは連日彼女の様態が報告され、日本中の宇宙機ファンが彼女の復活を祈りました。しかしその祈りもむなしく、12月9日午後8時30分、最後まで彼女が目覚めることはなく、JAXAは、「のぞみ」の火星軌道投入を断念。この日、滅菌処理されていない「のぞみ」が落下して火星を汚染することが無いように、その体は火星の重力圏から太陽中心の軌道へと送られました。


「のぞみ」はそのまま半永久的に太陽中心軌道の旅を続けることになります。
各国の探査機とのステージを夢見たまま、27万人の夢を胸に秘めて。

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■参考リンク

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