★6月18日に予定されていた金星探査機「あかつき」の打上げは天候不順のため延期となりました。中止がアナウンスされたのが打上げからわずか400秒前。朝早くから雨の中待機されていた方も多いでしょうに、つらい、つらすぎる。この辺の駆け引きがロケットの追っかけの醍醐味ではあるんですがやりきれないですね~。
打上は中断されH-2Aは再び組み立て棟の中でメンテナンスを受けています。次の打上げは中二日を挟んだ6月21日です。と、いうわけで本日はロケット打上げの話。
ロケットの追っかけ、それはなんとも分の悪いギャンブルでもあります。関東から交通費で往復10万。打上げは平気で1週間伸びるので、休暇を取るだけで一苦労。休暇の獲得、飛行機(キャパ小さい)のチケットの入手、舟の手配、宿の予約、レンタカーの争奪戦。コレに勝ち抜いて、ようやくスタートに立てるのです。しかしかろうじて島に上陸できても次なる難関が待ち構えています。H-2Aロケット、それは28万点の部品と100トン以上の可燃物で構成さえた精密機械。定刻通りに飛んでくれるのかは誰にも分からないからです。すべては気分屋のお姫様と南国の天候次第。マニアの間では「ロケットの打上は一週間遅れても”普通”」と言われます。それは一体何故なのでしょうか。
打上げの中継を追っかけた方なら分かると思いますが、ロケットはいつでも打上げられるわけではありません。目的地・・・それが宇宙ステーションだったり、他の惑星だったりすると、地球は自転するし相手も移動しますから、タイミングを無視して打上げても目的地に届きません。この軌道諸々を考慮した打上げのタイミングを「ウインドウ」と呼びます。例えば、目的地が移動したりせずある程度時間に自由の利くもの。つまり静止衛星や低軌道をまわる衛星はこのウインドウが1日に1時間とかあったりしますが、他天体を目指す「あかつき」や「かぐや」はこのウインドウが1秒しかありません(1日ずれる毎に時間もちょっとずつずれていきます)。それどころか火星や金星との距離は絶えず変化しますから、金星や火星に探査機を送り込めるウインドウは1年に一回とか二年に一回とかとなるほど狭いのです。「あかつき」は予備日程が6月3日まであるのですが、この日までに打上げられないと、次の打上げは来年の5月にまで持ち越されてしまいます。
「あかつき」がもともと乗るはずであった世界最大級の固体燃料ロケット「M-Ⅴ」は、全段が固体燃料(花火の火薬みたいなもの)であるため、打上げが中止になっても翌日すぐ準備して打てました。ウインドウの狭い惑星探査機を打上げるには固体燃料というのは都合が良かったのです。
一方で現在「あかつき」を乗せているH-2Aロケットは液体燃料ロケット。100トン以上の液体酸素と液体水素が必要です。充填に何時間もかかりますし、打ち上げ中止となれば、これを何時間もかけて抜き取らなければならないのです。その上、液体酸素も水素もマイナス200°以下というとても低い温度ですから、それを100トンもロケットに流し込めばロケットは縮むし、抜き取れば膨張します。それでもロケットが問題ないかどうかを点検するのに中二日かかります。打上げを中止するなら燃料充填前に、充填したらもうとりあえず打つしかない、それが理想と言えば理想ですが、数時間後、半日後の気象データを先読みしてどこまでスマートにGO/NOGOの判断を行うか。その辺が打上げ隊の腕の見せ所。H-2Aでウインドウの狭い探査機を打上げるのはとても大変なのです。ただ、H-2Aは過去にもウインドウ1秒の「かぐや」の打上にも成功してますし、昔は一度燃料を抜き取ると再打上げまで中5日かかってたのが、現在では中2日にまで短縮に成功しています。H-2AはH-2Aなりに日本の基幹ロケットとして新しい経験と実績を積み重ねつつあるのですね。
次回の打上げウインドウは21日の6時58分。昨今話題の丸ノ内Jaxa-iではパブリックビューイングが行われます。都内にお勤めの方、一度足を運んでみてはいかがでしょうか。
了解しました。
お忙しい中お答えいただき感謝します。ありがとうございます。
投稿情報: 他称・失脚 | 2010/05/24 06:19
>他称・失脚さん
>二次使用の件
お気遣い感謝です。
現時点でなにかしらコメントを出しても拘束力がないばかりかそれだけが一人歩きしてしまう恐れもありますので、公式なアナウンスが出るまでは、個別に対応させて頂きます。
大百科への記述は公式アナウンス後に対応して頂いた方が混乱が少なくて良いと思います。
投稿情報: しきしま@管理人 | 2010/05/24 03:38
H-ⅡA17号機、無事打ち上がりましたね。
きっと打上関係者はホッとしている一方、衛星関係者は分離した衛星がちゃんと立ち上げに成功しているかドキドキしながら忙しく立ち回っている事でしょうね。皆さんお疲れ様&がんばって!
しかしそう思うと打上って出産みたいですよね。
親(スタッフ)の都合でこの日に必ず生まれて(打ち上がって)くれるわけでなく、
生まれる(打ち上げの)プロセスは非常に危険と困難が伴い、
生まれた(打ち上がった)後も子供(衛星)が五体無事か(ちゃんと全機能作動してくれるか)親は確認がとれるまで安心できない。
無事なら万々歳、例えそうでなくても大事に大事にその子のできる事を見つけて導いてあげる。
今回打ち上がった子たちも、これから元気に頑張ってくれる事を願うばかりです。
ちなみに私は幸運なことに2基の打ち上げ(H-ⅡA F1、M-Ⅴ-5)を現地で見る事が出来たのですが、これまた運が良い事にほぼ予定通りに打ち上がってくれました。車借りれないor長期戦or延長時の野営を覚悟して持っていった荷物が重かった…
もし現地見学に行かれる方は出来るだけ余裕もった綿密かつ実現性の高い計画を立てて荷物は少なめ(着替えは現地にコインランドリーがあります)が吉です。
あ、遅くなりましたが増刷おめでとうございます!
ところでしきしまさんにご相談なのですが、先日ちらっと書かれたイラストの2次使用について、ニコニコ大百科の方にも案内を記載しようかと思うのですが、不都合ございますでしょうか?
よろしければメールの方でも結構ですのでご意見をお聞かせくだされば幸いです。ご迷惑かとは思いますがよろしければ何卒よろしくお願いいたします。
投稿情報: 他称・失脚 | 2010/05/21 18:11