今年の5月21日に打ち上げられた金星探査機「あかつき」が12月7日に金星に到着、周回軌道に入ります。おめでたい日なのですが、よんどころのない事情で、ただただ見守ってあげるくらいしかできません。ちょっとだけ解説のための更新です。
※画像はあくまでイメージです。間違ってたら教えて下さい・・・。
※イカロス君の軌道が全然違ったので図から削除しました・・・。
あかつきくん大人になる。惑星への周回軌道投入。それは探査機にとって一大イベントであり、最大の試練と言えます。地球から打ち上げられた「あかつき」は、太陽の周りを地球よりも内側を小さく回り、地球を追い抜き、金星に近づきます。そして金星に近づいたところで探査機にブレーキをかけ金星の丸みに沿うように(それでいて地面に落ちないように)向きを変えるのです。何が試練なのかというと図を見て頂ければ分かりますが、ブレーキをかけるチャンスは一度しかないのです。つまりこのたった一回の12分間の噴射に全てがかかっていると言っても過言ではありません。
そして予定通り12分の噴射が無事成功し軌道変更を行うことが出来たのなら、イカロス君ともここで永遠のお別れです。
孤独な夜。そして友との別れの悲しみも癒えないままに「あかつき」はここで初めて日陰つまり「夜」を体験します。夜になれば太陽電池パドルは発電を止めてしまいますし、体温はぎゅんぎゅん下がります。そこで「あかつき」は太陽光発電からバッテリー運用に切り替えて、ヒーターで体を暖めます。我々の体験する夜に比べればずっと短い時間ですが、体を取り巻く環境(とくに電力系)ががらりと変わってしまうので注意が必要です。
もう一つの試練。「あかつき」の困難はこれだけではありません。「あかつき」が一世一代の大勝負を行う金星は地球から6400万キロ。電波が届くまでに片道215秒かかります。これでは地球から指令を送っての操作は不可能なので、「あかつき」はあらかじめ決められたコマンドを実行し、自分1人でこの難関を切り抜けなければならないのです。また噴射を行う時間、「あかつき」は地球から見て金星の裏側に位置するので一時的に通信も途切れます。「あかつき」の軌道投入の成否が確定するのは12時間以上あとになります。
火星の敵は金星で討つ。惑星の周回軌道への軌道投入には、日本には苦い思い出があります。実は1998年に打ち上げられた火星探査機「のぞみ」、彼女が日本初の惑星探査機、となるはずでした。ところが「のぞみ」は地球から火星軌道へと向かう軌道変更噴射のトラブルから推進剤を浪費したうえ加速に失敗してしまいます。彼女の火星到達は絶望視される事態に陥りますが それでも残った推進剤でなんとか火星へたどり着ける軌道を見つけ出し、満身創痍の体を引きづって予定よりも五年遅れで火星へたどり着きます。しかし、旅の半ばで発生した様々なトラブルから完全に復活を遂げることが出来ず、「のぞみ」は 火星周回軌道への減速噴射を行うことが出来ませんでした。彼女は火星を通り過ぎ、そのまま太陽周回軌道をまわる人工惑星となり、その運用を終えました。
日本初の惑星探査ミッションは失敗に終わりましたが、「のぞみ」で得られた戦訓は「はやぶさ」に取り入れられ、「はやぶさ」は不死身の探査機として呼ばれるほどに成長しました。そして「あかつき」はこの「はやぶさ」の戦訓をさらに取り入れた探査機であり、この「あかつき」をもってJAXAはかつて敗れた戦いに再び挑もうとしています。
「あかつき」の軌道制御エンジン噴射開始は
12月7日 08時49分00秒です。
【参考リンク】
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。