HTVのドッキングに合わせての更新のつもりでしたがすっかり時機を逸してしまいました。ごきげんよう。さてあれよあれよというまにトラブルらしいトラブルも起きず順調にISSへドッキングしたHTV。今日はそのドッキングについての解説など。
・HTVは何故自動ドッキングを捨てたのか?
HTVが実証したキャプチャ・バーシング方式、それはつまり専用のドッキング機構を持たず、ISSのすぐそばを飛びながら、アームで掴んでもらうという方式。計画開始当初、NASAからして「そんなもん出来てたまるか」と言われていた技術でありました。しかしなんでまたHTVはNASAから反対されながらもその方式にこだわったのでしょうか。
これまでISSへドッキングするためにはAPASという自動ドッキングシステムが使われておりました。このAPASとはロシアが開発した信頼性の高いシステムで、無人宇宙船による自動ドッキングも可能な素晴らしいものです。スペースシャトルもこのAPASを使用しています。しかしこの素晴らしいAPASはこれはこれでデメリットもありました。まず宇宙船同士が同じ軌道を通り、緩やかながらもゴツンと宇宙船同士がぶつかり合うわけで、この衝撃型ドッキングと呼ばれる方式は潜在的に危険性があること。そして有名な「出入り口が狭いこと」。
対してHTVの「キャプチャバーシング方式(以下C/B方式)」は、お互いが同一軌道を飛ばないので「安全」で「出入り口が広くとれる」という特徴をもっています。C/B方式の利点はコスト面にも現れます。APASの高価なドッキングシステムを使わないことで宇宙船自体のコストも押さえられますし、自動ドッキング、つまり衝撃型ドッキングを使わないということは、船体に余分な力がかからないことから船体を軽く作ることが可能となります。HTVが側面に大きな開口部を開けることが出来たのもC/B方式ならではのメリットです。
そしてもう一つ語っておかなければならないのが、技術的な独立性です。ISSへのドッキングシステムはロシアのAPASしかない。それはつまりドッキングしたければ毎回毎々ロシアにお金を払ってパテントを買わなければならず、ロシアが首を横に振れば、ISSへのドッキングが不可能となってしまうことです。ランデブードッキング技術とは宇宙活動では欠かすことの出来ない技術です。HTVではこの技術を独自開発することで、海外から干渉される可能性を減らしています。
もちろん独自開発には他にもとても良いことがあります。無人機のドッキング技術はアメリカですら持っていません。つまりISSにドッキングするにはロシアか日本のシステムを買わなければならないと言うことです。HTV1が無事にドッキングを成功させたことで、HTVのシステムがアメリカの民間宇宙船に採用され、9機分60億円の受注があったことは記憶にあたらしいです。またシステムばかりではなく、アメリカからは、有償での日本スタッフによる米宇宙船の運用支援と訓練支援も打診されています。日本では、「自分でやらなくても海外から輸入すれば云々~」という論調は見られますが、首根っこの技術を他国に依存してしまえば骨の髄までしゃぶられます。逆もまたしかり。
NASAからも頼られるほどの存在になったHTV、しかしそれは今日突然出来上がった物ではありません。HTVのドッキング技術は、97年に打上げられた技術試験衛星きく7号こと「おりひめ・ひこぼし」の経験が基礎となっています。1990年代前半にタネを蒔いた技術が芽が出て収穫するまでに15年以上かかっているのです。
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