★「はやぶさ」:5月23日の0700時より「はやぶさ」の軌道補正マヌーバ(TCM-2)が始まりました。地球帰還へ向けた五回にわたる噴射の第三回目に当たります。コレが終わると「はやぶさ」は地球から250km上空を通過する軌道に入るのだそうです。今回の噴射は100時間ほど。通常のキックモーターを搭載する探査機であればこうした噴射は30分程度なのですがコレほど長時間にわたる噴射が必要とされるのはトルクのほとんど無いイオンエンジンならではなのでしょうね。
★「あかつき」:では本題。金星探査機「あかつき」は平成22年5月21日 6時58分22秒に打ち上げられ、他の衛星達と共に無事軌道に投入されました。関係者の皆様お疲れ様でした。H-2Aも今回で17号機となり、もうすっかり安定した風格を見せつつあります。細かいトラブルもなく天候さえ順調ならば定刻通りに飛ばせてしまうのもH-2以来の努力と経験の蓄積の結果なのだと思います。H-2ロケットが開発された当初、そのメインのお客さんは気象/通信衛星といった静止軌道衛星でした。94年に初号機が打ち上げられて以来、途中でH-2Aに代替わりして16年、合計24機。現在では静止軌道はもとより、惑星間軌道に複数の衛星を異なる軌道に一度に放り込める芸達者に成長したのです。
H-2Aは6号機の事故の教訓から様々な改修プランが提案され、それが14号機あたりから実際に反映され始め現在までの11機連続成功に繋がっています。現在でも部品の枯渇対策から始まり2段目エンジンの更なる低振動化、水没式フェアリングの開発、SRBの国産化などが検討されています。
★そして今回の17号機に搭載された主役である「あかつき」とH-2Aは面白い関係にあります。そもそも「あかつき」はISAS(宇宙科学研究所)の探査機でありその打上はM-Vロケットによって行われるはずでした。しかし、ISASのJAXA統合に始まるさまざまな理由でこのM-Ⅴロケットが廃止になり、「あかつき」はH-2Aによって打ち上げられることになったのです。
すでに設計が進んでいた「あかつき」にはでっかい迷惑でしたが、一方で得るモノも少なくありませんでした。M-Ⅴよりも打ち上げ能力に優れるH-2Aを使うことにより、まず探査機自体があまり推進剤を持たなくても良くなり、探査機の重量は100kg以上も軽くなりました。そしてこれまでの「のぞみ」や「はやぶさ」のように、スイングバイで加速を稼ぐ必要がなくなりダイレクトに金星を目指すことが可能になったことで、ミッションの確実性もぐっと高まっています。
一方で困ったことも起きました。低軌道に10トンを送り込めるH-2Aにとって0.5トンしかない「あかつき」は軽すぎて打ち上げられないことが判明したのです。「あかつき」と同じくらいのオモリを乗せることも検討されましたが結果として、この余剰ペイロードの存在が小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」の開発のキッカケとなります。「IKAROS」の開発期間はわずか2年半、開発費用は「あかつき」の1/6である20億円。月に行くことなく地上で朽ちた月探査機の部品をもぎ、他の衛星達の部品を再作とで地上試験を省略し、例外的なスピードで「IKAROS」の開発が繰り広げられるのですが、その話はまた別の機会に。ちなみに「IKAROS」は実証機と名前が付いているモノの、ハレー彗星探査機「すいせい」「さきがけ」よりも大きく、重いです。
最後にH-2Aに比して「あかつき」がどのくらい小さいのかがよく分かる図がJAXAクラブさんに出ていたのでご紹介。「IKAROS」が見えませんが彼は「あかつき」の足下の土台の中に埋まっています。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。