アメリカの上層大気観測衛星UARSが24日午後地球に落下しました。1991年打上げとのことですから20年振りの帰還ですね。良い機会なので任務を終えた人工衛星達についてちょっとお話しなどしてみようかと思います。
・そもそも宇宙ゴミって、何が問題
宇宙ゴミとは人類の宇宙活動によって発生するゴミの事を言います。具体的には死んだ人工衛星や、ロケットの上段、衛星分離の度に飛び散ったボルトやゴミ、燃料の燃えかすetc、etcなどです。これら宇宙ゴミはスペースデブリと呼ばれ その総数は1mm以下のデブリを含めると数兆個にも及びます。そのうち人類がレーダーで捉えカタログ化し追跡を継続しているのはわずか14000個程度に過ぎません(2008年データ)。
この宇宙ゴミの何が問題かというと、秒速8kmという恐ろしいスピードで飛び回っていること。さらにデブリが他のデブリにあたり、更なるデブリを呼びつつあるということにあります。
我々で言うのならば、ぶつかれば船を余裕で沈める危険性のあるゴミが浦賀水道や明石海峡にじゃぶじゃぶと増えて、このままじゃ船で海に出られなくなっちゃうんじゃない?ということ。
秒速8kmというスピードはわかりやすく言えば音速の24~25倍に相当しペンキのカケラ一辺でスペースシャトルのガラスにヒビを入れるほどの破壊力を持ちます。スペースシャトルは92年から05年までの54回のミッションで微少デブリの窓への衝突が1634回、そして92回に及ぶ窓の交換が行われているほどなのです。
今回は駆け足ではございますが、その宇宙ゴミの発生に対してどんな対策が取られつつあるのかなどをつらつらとご紹介。
・LEOとGEO
人工衛星というものは通常、高度数百から800kmくらいの高度を飛ぶ低軌道(LEO)の衛星(「だいち」や「いぶき」などの地球観測衛星や偵察衛星など)と高度36000kmの静止軌道(GEO)を飛ぶ衛星(ひまわりなどの気象衛星など)の二つに分けられます(今回は惑星探査機などは除外します)。
・静止軌道衛星の場合
高度36000kmを飛ぶ静止衛星はとても高度が高いので、衛星が死んでしまってもまず地球へは落ちてきません。ならばそのまま放置しても良さそうな気がします。でもこの軌道はとても便利なので役目を終えた衛星は次の衛星が入ってこられるように最後の燃料を使って軌道を離脱、世に言う墓場軌道なるモノに移動してここで最後を迎えます。
こうして衛星が廃棄のために軌道を変更することをデオービット(de-orbit)といいます。
・地球に落ちてくるデブリ達
では今回話題となったUARS衛星や、我らが愛した「だいち」衛星や「いぶき」衛星、大きなモノでは国際宇宙ステーションなどの低軌道衛星はどうなのでしょうか。
地表から数百キロの軌道を飛ぶこれらの衛星、一見すると高いところを飛んでいるように思われがちですが、地球の直径が1万2000kmであることを考えると実は地表から薄皮一枚上を飛んでいるに過ぎません。生きている間はエンジンを噴かして地球に落ちないように調整している衛星達も、死んでしまえば軌道上の極薄い大気の抵抗によって徐々に高度を落としていき、ついには落下します。大抵の部品は大気圏突入の際に燃え尽きますが、エンジンの耐熱部品など一部が地表に落下することがあります。
これはこれで大迷惑ではありますが、地球に落ちなければよい、というわけでもありません。死んだ衛星がいつまでも軌道を回っているとこれは他の衛星の活動を阻害します(いわゆるデブリになります)。なので日本の衛星は運用終了後25年以内に地球に落下することが求められていますし、同様に今回のUARS衛星も運用終了時に大気圏に落ちやすくなるようデオービット作業を行っているのです。また運用を終えた衛星は何かのはずみで爆発して破片をばらまくのを避けるために、体内の推進剤を全て放出したあと運用を停止します。
つまりは、打上げられたときはゴミを出さず、任務を終えたら速やかにデオービットで他の衛星に道を譲り、可能であればチリ一つ残さずに燃え尽きる。これが行儀の良い人工衛星の理想の姿。
そして宇宙デブリとなっているのは衛星だけではありません。ロケットのフェアリング(先端カバー)や上段エンジンも同様にゴミになります。「こうのとり(HTV)」はご存じの通り、運用終了後は南太平洋上のロケット墓場に確実に落下するように運用されています。人工衛星は積極的に大気に落とすことはされていないようですが、ロケットの上段エンジンなどは放っておくとこれも軌道上でデブリ化するので最近は積極的に洋上へ(管理された状態で)落とすようになりつつあるようです。H-2Aの場合でも二段目機体も今後は制御落下されるようになるのでしょうし、フェアリングは海上に落下してぷかぷか浮いて危ないので船で回収しています(これではコストがかかるので将来は「とても軽いけど海に沈むフェアリング」を開発中です)。
※日本ではJMR-003「スペースデブリ発生防止標準」なるものを基準として、衛星やロケットの設計や運用が行われています。
・そしてデブリで傷つく衛星達
環境問題が長年放置された末に現在の状況があるように、スペースデブリ問題も深刻の度を増しています。2007年の中国による風雲一号破壊実験、2008年のアメリカによる制御不能偵察衛星の撃墜処分、2009年のイリジウム33とコスモス2251の衝突事故など記憶に新しいところです。
スペースデブリによる実害が現れ始め、国産の衛星でも対デブリ対策が行われています。例えば観測網を敷設し、接近したら衛星が回避する運用手順の策定する。デブリで撃ち抜かれても即死しないよう電気配線を2線、3線と分岐させる。進行方向前面には重要な配管を置くのをやめる、などです。「きぼう」モジュールと「こうのとり」など、何よりも安全を重要視される宇宙機にかんしてはデブリバンパー(対デブリ装甲)などというものも使われることがあります(ただしこれも数㎝レベルの物体が当たればアウトです)。
現在では宇宙ステーションでの飛行士も常駐していますし、宇宙ホテルなどの計画も立ち上がり宇宙滞在人口は拡大していくものと考えられます。そうなればスペースデブリ問題への取り組みは現在以上に真剣に取り組まなければなりません。とはいえ1kgを打上げるのに100万円かかる現在の宇宙開発では、デブリ除去衛星など夢のまた夢であることは間違いなく、各国のモラルに頼らざる得ないのが実情です。
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