遂にといいますか、それともやっぱりといいますか、良いニュースが飛び込んできました。今月4日にスラスタのトラブルから加速を停止した「はやぶさ」がスラスタ復旧に成功。再び地球への加速を再開したとのこと。
まだまだ予断を許さない状況であるとは思いますが、来年の三月下旬まで現状が維持できれば六月の地球帰還が可能だそうです。
えー、状況をまとめましょう。
1)イオンエンジンのこと
そもそも「はやぶさ」のメインエンジンであるイオンエンジン(スラスタ)は、推進剤であるキセノンをイオン化しこれを電気で押し出して進む仕組み。ただこの時プラスイオンだけを放出してしまうと良くないので、それを中和するための中和器がセットでくっついています(こっからも少量のキセノンガスが出ます)。んでこの中和器は長く使っていると駄目になってしまいます、つまりこれがスラスタの寿命を左右するわけですね。
2)コレまでのあらすじ
2009年10月末の時点ではABCD4基あるエンジンは
A:打ち上げ当初から調子よくないのでほぼ未使用
B:劣化して使用停止
C:使用中(ただし劣化して出力低下)
D:使用中(ただし劣化して出力低下)
と言う状態でした。
それが11月4日にスラスタDまで停まってしまい、生きているスラスタはCのみになってしまいました一基のスラスタでは必要な加速を得るのが難しいばかりか、これまで以上にCを酷使することになるので、とうてい地球に着くまでスラスタが持つはずがなく、それ故に地球帰還の可能性が危ぶまれていたのです。
3)対策
さて、「はやぶさ」の再加速を可能にしたのはイオンエンジンのクロス運転と呼ばれる手法でした。これは現在まで未使用でありほぼ新品に近いスラスタAの中和器と、スラスタBのイオン源を同時に使用することで一基のエンジンの様に使おうという試みです。えっそんなのあり?と言いたくもなりますが、中和器は必ずしも同じスラスタからでなくとも、とりあえず噴いていればいいのだそうです。しかもこうした事態を想定して設計時にあらかじめ回路を組んでいたと言いますからダブルで驚かされます。
4)問題点と今後
起死回生のアイデアではありますが、これはこれで問題が無いわけではありません。発生する推力はスラスタ一基分、とは言っても使わないAのスラスタからもキセノンガスが出てしまいますし、これまた寿命を迎えたBの中和器からもガスが出てしまいます。もちろん電気も喰います。つまり得られる出力はスラスタ1基分であっても、消費する電力と推進剤は2基分必要になってしまうのです。地球帰還までに必要とされるキセノンの量は5kg。幸い「はやぶさ」はまだ20kgのキセノンを抱えていますし、消費電力面では「はやぶさ」が太陽に近づきつつあることから、推薬/電力共にクリアできているとのことです。
ABクロス運転で発生する推力はわずかに6.5mN(一円玉も持ち上げられない)。「はやぶさ」が地球に帰り着く為には、このささやかな推力をもって200m/s強の加速を、来年三月までに行うことが必要です。
以上、取り急ぎ解説などしてみました。
11月19日現在、「はやぶさ」と地球との距離は136,612,320kmです。
<参考リンク>
・小惑星探査機「はやぶさ」の帰還運用の再開について(JAXA)
http://www.jaxa.jp/press/2009/11/20091119_hayabusa_j.html
・はやぶさ、帰還に向けてイオンエンジン再起動(松浦晋也のL/D)
http://smatsu.air-nifty.com/lbyd/2009/11/post-1cd1.html
・小惑星探査機「はやぶさ」が地球への帰還を再開(Robotwatch)
http://robot.watch.impress.co.jp/docs/news/20091120_330425.html